秘密2
カルピス
2010年03月15日
37,100
あれから数年の歳月が経ち、私は19になっていた。
その間、おばとの接触は数度。
年毎の年末年始、お盆、それに何度かの法事くらいだった。
お互い、普通に接していた。
少なくともうわべでは。
というより、おばはあの出来事が本当にあったことなのかわからなくなるくらい普通に接してくれた。
ありがたかった。
でも私は怖かった。
あれ以来、私の中でおばは全く別の人間として捉えるようになっていたから。
なるべくその変化を悟られぬよう振る舞っていたが…
微妙な表情の変化、視線、態度、声、それを周りの親戚に気付かれるのが怖かった。
なによりおば本人にそれを知られるのが怖かった。
でも気がつくとおばを目で追っていた。
もちろん細心の注意を払って。
後姿を、横顔を、少し荒れた指の動きを。
その年のお盆、毎年のことだが変わり映えのしない顔ぶれと、同じ様な光景が繰り返されていた。
近場の親戚同士、それぞれの家を行き来して仏壇に手を合わせ、毎年同じ様な話をして、夜は祖父を中心に宴会。
私より年下の子供たちは別室でTV、おばを中心とした女性陣は料理を、私と同世代の従兄弟は宴会にお付き合い。
あまり好きではなかった。
毎年繰り返されていることではあったが、祖父やおじ達の酔っ払っただらしない顔や、煙草の煙で少しけむった部屋の空気、なにより後片付けで最後まで台所で格闘しているおばの後姿。
例年なら私の母やもう2人のおば、それに私と従兄弟で後片付けを手伝うのだが、その日は少し違っていた。
不覚にもおじ達に乗せられ、飲みつけない日本酒を大量に飲まされダウンしてしまった。
次の日、母の声で目が覚めた。
頭が痛い。まだお酒が残っているようだった。
その日朝から少し離れた親戚の家へ、挨拶に行く予定で
、私は運転手をするはずだった。
「無理無理。まったく…じゃあ行ってきます。」
二日酔いの私を諦め、出かけていった。
残ったのは私とおば、それに父と別のおじおば、子供たちだった。
午前中は地獄だった。
猛烈な頭痛と吐き気。
二日酔いの経験はあったがここまでひどいのは初めてだった。
お昼過ぎ、やっと行動ができるまで回復した。
しかしまだふらふらする。
気がつくと誰もいない。
おじと父はパチンコか。おばや子供たちはそのへんで遊んでるのかな?
まあいいや…
考えるのも面倒くさかった。
台所に行き、水を一杯。
惰性でTVをつけた。
と、人の動く気配を感じたのだろうか?
おばが2階から降りてきた。
「起きた〜?大丈夫」
「なんとか…」
「ごめんね〜おじさんが悪いよね。」
「やばい…まったく覚えてないんだけど」
「あは、うんしょうんしょって運ばれてたよw」
顔に一気に血液が集まっていくのがわかった。
恥ずかしかった。
「あーもう…」
「まだ横になってなよ」
そう言うとおばは2階へ上がって行った。
少し横になった。
まだお酒が残っている感じだった。
喉の渇きをおぼえ、再び台所で水を飲んだ。
《ドクン》
その時私は何を思ったのだろう。
思い出せない。
どんな顔をしていたのだろう。
悪魔のような顔かそれとも…
おばのいる2階へ続く階段をゆっくり、静かに上った。記憶がよみがえる。
鼓動がうるさい。
あの日と同じ様に。
部屋にはいつものおばがいた。
洗濯物を畳んでいた。
ほっとした。
…少し落胆した。
どんな顔をしてたんだろう。
「みんなは?」
「う〜ん、午前中でかけたよ。子供たちはそのへんで遊んでると思う。」
「そっか」
「今日も暑いね〜お腹へったでしょ?」
「ううん」
おもむろに腰をおろすと手伝うふりをしながら他愛のない話を始めた。
大学のこと、昨日のこと、この家のこと。
昨日までの自分を考えるとにわかに信じられないほどリラックスして、そして穏やかでなぜか優しい気持ちになっていた。
「でもおばさんは大変だよね。ホントにありがと」
「あははw」
本音だった。
我が侭な祖父、ここのところ痴呆の兆候がみられる祖母、仕事の忙しいおじ。
その上、盆暮れにはいつもフル回転。
あの出来事以来、いや年齢のせいもあるだろう、いろんなことが見えるようになった私は、本当におばに感謝していた。
みんなが高いびきの中、後片付けにおわれ最後にお風呂に入り、そして朝は一番に起きる。
私は一度しか見たことはないが、たまに夜中に目を覚ましわけのわからないことを言い出す祖母と毎日隣で寝ているのもおばだ。
私だったら発狂してしまう。
「平気平気、頑張るぞ〜」
「もう十分頑張ってるよ。頑張りすぎないでね。倒れちゃうよ。」
「あはは〜w」
《明るいなぁ》
おばに視線を向けた。
!!!
下を向き肩が震えている。
???
《泣いて…る?》
《どうしよう…》
真っ先にそう思った。
「おばさん…」
「あ〜ダイジョブダイジョブ」
「…」
今考えると、日常の生活で限界まで張り詰めた糸が、世間知らずの若僧の無責任な、だけど利害の絡まない無邪気な言葉に気持ちが緩んだんだろう。
どうしていいかわからなかった。
おばはまだ下を向いて小刻みに震えている。
おばに近づき洗濯物を握り締めてる手に、そっと触れた。
「ゴメンゴメン、大丈夫」
「うん」
「あー」
顔をあげた。
目の周りが腫れて別人のような表情をしている。
いとおしかった。切なくなった。
抱きしめてしまった。
半身のまま、不恰好な体勢で。
そのまましばらくおばは泣いていた。
子供のように。
ずっと頭を撫でていた。
私の心はその時、妙に冷静だった。
なぜだかわからない。
蝉の声がやけにうるさかった。
「大丈夫?」
ゆっくり、数回うなずいた。
体が離れたが、うつむいてるおばの表情はうかがい知れない。
しばらく静寂が続く。
少し気まずい感じがしたが、なにも言葉が出てこない。
「ふぅー」
おばが大きなため息をついて顔を上げた。
目が逢った。
もう止まらなかった。
ゆっくり顔を近づけた。
自然に唇が重なった。
それは同情や憐憫という感情からのものではなかった。
この後、なにをすべきかわかっていた。
経験がないわけではなかったし、完全に本能が理性を凌駕していた。
だが両の手がわずかにおばに触れたとき、手首を握られ自由を失った。
その後、階下から子供の声がするまでその甘美な時は続いた。
その間、おばとの接触は数度。
年毎の年末年始、お盆、それに何度かの法事くらいだった。
お互い、普通に接していた。
少なくともうわべでは。
というより、おばはあの出来事が本当にあったことなのかわからなくなるくらい普通に接してくれた。
ありがたかった。
でも私は怖かった。
あれ以来、私の中でおばは全く別の人間として捉えるようになっていたから。
なるべくその変化を悟られぬよう振る舞っていたが…
微妙な表情の変化、視線、態度、声、それを周りの親戚に気付かれるのが怖かった。
なによりおば本人にそれを知られるのが怖かった。
でも気がつくとおばを目で追っていた。
もちろん細心の注意を払って。
後姿を、横顔を、少し荒れた指の動きを。
その年のお盆、毎年のことだが変わり映えのしない顔ぶれと、同じ様な光景が繰り返されていた。
近場の親戚同士、それぞれの家を行き来して仏壇に手を合わせ、毎年同じ様な話をして、夜は祖父を中心に宴会。
私より年下の子供たちは別室でTV、おばを中心とした女性陣は料理を、私と同世代の従兄弟は宴会にお付き合い。
あまり好きではなかった。
毎年繰り返されていることではあったが、祖父やおじ達の酔っ払っただらしない顔や、煙草の煙で少しけむった部屋の空気、なにより後片付けで最後まで台所で格闘しているおばの後姿。
例年なら私の母やもう2人のおば、それに私と従兄弟で後片付けを手伝うのだが、その日は少し違っていた。
不覚にもおじ達に乗せられ、飲みつけない日本酒を大量に飲まされダウンしてしまった。
次の日、母の声で目が覚めた。
頭が痛い。まだお酒が残っているようだった。
その日朝から少し離れた親戚の家へ、挨拶に行く予定で
、私は運転手をするはずだった。
「無理無理。まったく…じゃあ行ってきます。」
二日酔いの私を諦め、出かけていった。
残ったのは私とおば、それに父と別のおじおば、子供たちだった。
午前中は地獄だった。
猛烈な頭痛と吐き気。
二日酔いの経験はあったがここまでひどいのは初めてだった。
お昼過ぎ、やっと行動ができるまで回復した。
しかしまだふらふらする。
気がつくと誰もいない。
おじと父はパチンコか。おばや子供たちはそのへんで遊んでるのかな?
まあいいや…
考えるのも面倒くさかった。
台所に行き、水を一杯。
惰性でTVをつけた。
と、人の動く気配を感じたのだろうか?
おばが2階から降りてきた。
「起きた〜?大丈夫」
「なんとか…」
「ごめんね〜おじさんが悪いよね。」
「やばい…まったく覚えてないんだけど」
「あは、うんしょうんしょって運ばれてたよw」
顔に一気に血液が集まっていくのがわかった。
恥ずかしかった。
「あーもう…」
「まだ横になってなよ」
そう言うとおばは2階へ上がって行った。
少し横になった。
まだお酒が残っている感じだった。
喉の渇きをおぼえ、再び台所で水を飲んだ。
《ドクン》
その時私は何を思ったのだろう。
思い出せない。
どんな顔をしていたのだろう。
悪魔のような顔かそれとも…
おばのいる2階へ続く階段をゆっくり、静かに上った。記憶がよみがえる。
鼓動がうるさい。
あの日と同じ様に。
部屋にはいつものおばがいた。
洗濯物を畳んでいた。
ほっとした。
…少し落胆した。
どんな顔をしてたんだろう。
「みんなは?」
「う〜ん、午前中でかけたよ。子供たちはそのへんで遊んでると思う。」
「そっか」
「今日も暑いね〜お腹へったでしょ?」
「ううん」
おもむろに腰をおろすと手伝うふりをしながら他愛のない話を始めた。
大学のこと、昨日のこと、この家のこと。
昨日までの自分を考えるとにわかに信じられないほどリラックスして、そして穏やかでなぜか優しい気持ちになっていた。
「でもおばさんは大変だよね。ホントにありがと」
「あははw」
本音だった。
我が侭な祖父、ここのところ痴呆の兆候がみられる祖母、仕事の忙しいおじ。
その上、盆暮れにはいつもフル回転。
あの出来事以来、いや年齢のせいもあるだろう、いろんなことが見えるようになった私は、本当におばに感謝していた。
みんなが高いびきの中、後片付けにおわれ最後にお風呂に入り、そして朝は一番に起きる。
私は一度しか見たことはないが、たまに夜中に目を覚ましわけのわからないことを言い出す祖母と毎日隣で寝ているのもおばだ。
私だったら発狂してしまう。
「平気平気、頑張るぞ〜」
「もう十分頑張ってるよ。頑張りすぎないでね。倒れちゃうよ。」
「あはは〜w」
《明るいなぁ》
おばに視線を向けた。
!!!
下を向き肩が震えている。
???
《泣いて…る?》
《どうしよう…》
真っ先にそう思った。
「おばさん…」
「あ〜ダイジョブダイジョブ」
「…」
今考えると、日常の生活で限界まで張り詰めた糸が、世間知らずの若僧の無責任な、だけど利害の絡まない無邪気な言葉に気持ちが緩んだんだろう。
どうしていいかわからなかった。
おばはまだ下を向いて小刻みに震えている。
おばに近づき洗濯物を握り締めてる手に、そっと触れた。
「ゴメンゴメン、大丈夫」
「うん」
「あー」
顔をあげた。
目の周りが腫れて別人のような表情をしている。
いとおしかった。切なくなった。
抱きしめてしまった。
半身のまま、不恰好な体勢で。
そのまましばらくおばは泣いていた。
子供のように。
ずっと頭を撫でていた。
私の心はその時、妙に冷静だった。
なぜだかわからない。
蝉の声がやけにうるさかった。
「大丈夫?」
ゆっくり、数回うなずいた。
体が離れたが、うつむいてるおばの表情はうかがい知れない。
しばらく静寂が続く。
少し気まずい感じがしたが、なにも言葉が出てこない。
「ふぅー」
おばが大きなため息をついて顔を上げた。
目が逢った。
もう止まらなかった。
ゆっくり顔を近づけた。
自然に唇が重なった。
それは同情や憐憫という感情からのものではなかった。
この後、なにをすべきかわかっていた。
経験がないわけではなかったし、完全に本能が理性を凌駕していた。
だが両の手がわずかにおばに触れたとき、手首を握られ自由を失った。
その後、階下から子供の声がするまでその甘美な時は続いた。